田螺長者 その3
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父親は出すには出したが、息子の事が心配で心配で、その後を見え隠れしながら往くと、ちょうど人がやるように水溜りや、橋のようなところでは「はァい、はァい」と声かけをして、シャンシャンと進んでいきます。そればかりか美しい声を張上げて、ほのほのと馬方節などを歌って、馬もその声に足並みを合わせて、チャングチャングと鈴を鳴らして勇み勇んで行きます。往来や田圃にいる人はこの有様を見て驚き、声はすれども姿は見えず・・・ほんにお前は・・・とはこのことだ。とびっくりしたど。あの馬はたしかあの貧乏百姓の痩せ馬に違いねえが・・・一体あの声はどこで誰が歌ってるのがと不思議がって眺めていた。
それを見た親父さんは大変に思って、すぐ家に戻って神棚の前に行って、申す申す御水神様、今までは何も知らなかったものだから、田螺をああして置きましたが、大変ありがたい子供をお授け下されんした。それにつけても無事息災に向こうへ行き届くように、あの子や、馬の上を、どうぞお護りやってくなさい、と夫婦で一心万望神様を拝んでおった。
田螺はそんなことには頓着なく、どんどん馬を馭して、長者ドンのもとへ行った。下男が、それ年貢米が来たと言って出てみると、馬ばかりで誰も人がついてきていなかった。「どうしてこう馬ばかり寄こしたべ」っと話していると、「米を持ってきたから、どうか下ろしてケネガ」と言う声が馬の荷の中から聞こえたど。誰もいないのにと中荷の脇を見ると、小さな田螺が一つ乗ってらったど。田螺は「おれはこんな体で馬から荷物を下ろす事も出来ねがら、申し訳ねえが下ろしてけない。おれの体も潰さないように、縁側の端の上にでもそっと置いてケテ」といったと。下男どもはビックらコイで「檀那様、檀那様、田螺が米持ってシャベッタ」とさけんだど。檀那様も驚いてどれどれといそいそと出てきたんだど。いかにも下男の言うとおり、そのうち家のもんがぞろぞろと出てきて見て皆不思議な事だと、話したんだど。
そのうち田螺の指示で米俵も馬から下ろして倉に積み、馬には飼葉をやり、田螺ば中さいれてご馳走を出したんだど。

まだまだ続くよ
その4

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