田螺長者 その2
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生まれた田螺の子には皆驚いたが、これは何でも御水神様の申し子だからというので、お椀に水を入れて、その中に入れ、神棚に上げて、大事に育てていたが、不思議な事に、その田螺の子は生まれてから20年になるが、少しも大きくならなかったど。それでもご飯などは普通に食べるが物は一声も言えなかった。ある日のこと、年取った親父は、大家の長者ドンに収める年貢米を馬につけながら、さてさてせっかく御水神様から申し子を授かって、やれ嬉やと思うと、あろうことかそれが田螺の息子である。田螺の子であれば何の役にも立たない。おれはこうして一生働いて妻子を養わなければならなるまいと呟くと、「それではトトさんトトさん、今日はオラがその米を持って行く・・・」と言う声がどこかでしたんだど。親父は驚いて回りをきょろきょろ見廻したが誰もいなかったど。不思議に思って「そんなこと言うのは誰だ」と言うと「おれだおれだ、田螺の息子だ。今まで長い間えらい御恩を受けたが、もうそろそろおれも世の中に出る時が来たから、今日はおれがトトさんの代わりに檀那様のところさ、年貢米を持って行く」といったど。どうやって馬さ曳いた行けヤと訊くと「おれは田螺だから馬さ曳いていく事はかなわぬが、米荷の間さ乗せてければ、苦なく馬を自由に曳いて行ける」と言ったんだど。親父は今まで物も言わなかった田螺が物を言い出したばかりか、身代わりに年貢米を納めに行くと言うから大変驚いた。しかしこれも御水神様の申し子の言う事だから、背いたらどんなバチがあたるかもしれないと思って、馬三頭に米俵をつけて、言われる通りに、神棚のお椀の中にいる田螺をつまんで来て、その荷の間に乗せてやると、田螺は普通の人間のような声で、「それでは、トトさまもガガさまも行って来ます。ハイどう、どう、しッしッ」と上手に馬どもを馭して家のジョノクチを出て行った。

その三に続く

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